COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その11
データ配信のこと。

糸井 あのさ、ここらへんで慶一君のデータ配信の話
詳しくやってかない?
鈴木 ネット配信のことですね。ええと、今年の3月頃から
インターネットにつないだわけです。ここ(鼠穴)に来て
糸井さんに説得されてさ。で、いきなり12月に
ネット配信なわけだけれども、要するに、
「作ったものをはやく出したい」という気持ちから。
作ったものをああでもないこうでもないって
いじってるよりも、早く出したいっていう気持ちなんだ。
アルバムなんて、作ったら1回しか聞かないしね。
そうじゃなくて、できたてほやほや、出したてのもの、
ちょっと不完全でもいいくらいで、
それを何かいい形で出したいなあという気持ちがあった。
そこに「ネット配信」という方法が実際あったわけだから、
それいいんじゃないかと。ネットにつないですぐ、
配信思いついて9月に純正のホームページ、リリースして。
インターネットのホームページって、
みんな日記書いてる人も多いわけだし、
それもぴったりだから、ね。
思いついてはじめるまでっていうのは、
7、8か月あるから、今までだったらね。
結局同じくらいの時間かかっちゃったけど。
お初ということで。
糸井 それはそうだよなあ。
鈴木 非常に不本意ではあるけれど、
一番を目指そうと思ったわけだよ、まず最初。
でもP−MODELが先にやっちゃった。
その時点で急速に気持ちが萎えていくかなと思ったら、
そうじゃなかったね。いや、ここでこれやっときたい
っていう気持ちのほうが強い。誰がこうやったら、
っていうものがまったく確立されてないわけですよ。
タダで配るとかそんなことだろうけど、
それと作ったものって何なんだろうなあ、って。
自分の作ったものね。それを、タダであげてしまうのは
何なんだろうか。友達でもない人に。
作ったものがダイレクトに流れることに興味がある。
間に小売店がないわけですから。
糸井 問屋側の「仕入れません」ってことはないわけだよね。
鈴木 うん。そういうことに興味があることと、
権利みたいなもの、つくった権利みたいなのは
どうなるだろう、と。つまり配ったときも、
私が作ったんですよ、と登録しちゃえるわけじゃない?
明文化してるけど、私たちが作ったんですよって。
けど、保証はない。
そういう保証のないことをやってみよう、と。
今までは銀行、レコード会社ね、もしくは出版化されて、
何割かもらうっていう……。
糸井 配当のようにもらってたわけですよね。
鈴木 その中にいたわけだよね。それはちょっといい目に
あったけど、そんなにずっとではないよね。
それで何となく食えてきてるという、
そういう立場だからこそ、そっちに行きやすかったのかも
しれない。だからといってネット配信に過大なる期待を
しているわけでもない。当然CDも出すし、
2ウェイなんだけど、作ったものの入り口と出口が
見通しがいいので興味深い。受け取り側がどう使うか、
まったくわからないね、でも。
当然コピーもするかもしれないね。
糸井 その人はするだろうね、タダだから。
鈴木 タダだからっていってゲットしたものを人に売りました、
これはいけないらしいね。タダで配ったものを
またタダで人にあげましたっていうのも、これ法律上、
MAA(メディア・アーティスト協会)とかが
研究してるけど、これ本来はいけないんじゃないか、って。
何か連絡をくれ、と。それつきつめてくと、たとえば
いい茶碗ができたんで、あげます、ってあげるじゃない。
それをもらった人が質屋に入れたとするじゃない。
そういう場合はこちらも嫌な気分になるじゃない、
っていう根本的なところなんだよね。
質屋に入れた、人に売った、とかまさにポンペイと
つながるかわからないが、そういう気持ちではあるな。
糸井 ちょっと先輩として慶一君にいうと、
その計画とってもおもしろいんですよ。
何が大事かっていうとね、一番大事なのは、
これをやったら何がわかったっていう
偶然性もあるんだけど、これをやってわかりたいことって
いうのをもうちょっとはっきりさせる、っていう、
これがやっぱ第一かな?
鈴木 自分でもネット配信聞きたいじゃない?
その時にどのプレイヤーがいいか、というのがわかりたい。
ま、これがわかると人気のものが勝っていっちゃう
わけだけど。
糸井 変化するかもしれないしね。
鈴木 それがわかりたいのと、ムーンライダーズという
ホームページにいつも来てる人じゃ「ない」人が、
ネット配信やるよっていうことでどう動いてくれるかなあ、
ということ。これはさあ、数だけど、
それでお金が入るわけじゃないから、
数だけど、頭脳にくる、その2点。
うーん、今日は記者会見のいいシミュレーションに
なったよ。
糸井 そのあとは、俺も訊かれるんだけど、
「それは将来的にビジネスになるんですか?」って。
鈴木 それは言われるね。
糸井 言われるんだけど、早く言ってほしいっていう気分が
みんなにはあるんですよ。
だったら投資する、とか、だったら俺はやらない、
とかいうことを、人を使ってみんなは知りたいんですよ。
俺は自分が「ほぼ日」を始めたとき、
将来的展望っていうのを、家でいうと柱1本だけは
わかってたんだ。1本っていうのは何かというと、
広告メディアはもっとばらけるはずだ、ということ。
企業が伝えたい情報っていうのは、もっと
「うちを信頼してね」っていう情報なんだよ。
ここで丁寧にいくらでも説明できるメディアを作ったら、
それは雑誌のタイアップページとかとは違うかたちで
作れるだろう、と。
全部を引き受けるわけじゃないよ、っていうことで、
僕個人としては目を通しているメディアなので、
欠点はあるかもしれないけれど、
「こういういいところがある」っていう見方を提示できる。
誤算は単純に、これだけやれば食える、っていう以上の
コストがかかるんですよ。コスト以外はぜんぶ
「次、何ができる?」っていう実験で。
もっというと、このメディアを中心にしてできることから
やってくとかいう、けっこう複雑な構造で、
人が訊きたいのは、1人いくら取ればいいとかいうこと。
それをすぐに訊きたがるんだけど、違うと思うんだよね。
鈴木 それとね、まったくほぼ同じ。
私たちのやるのは実験であるし、
「これで金になるんですか? なりませんか?」
っていうのは、当然訊いてくるでしょう。
そりゃわかりませんよ。まったくわかりません。
そこ、半年後に金になるようなシステムが
できるかもしれない。そのシステムに中心になって
関わる気持ちはわれわれにはない、と。
まあ、だからモルモットみたいなもので、
それを1回お見せしましょう、と。
それはプロモーションでも何でもない。
配信する曲は二度と使わないわけで。他のメディアでは。
ただね、不思議な気持ちなんだよ。作ったぞという、
何かね、権利というと大げさだけど、それしかない。
これで何とか暮らしていこうとか思うのは、
そこまで考える時期ではないと思う。
糸井 それは俺が「ほぼ日」を始めたときの気持ちと
ほとんど同じだろうな。今までどおり銀行に頭下げて
ツバをはきかけながら借金をしてくみたいな、
そういうのではないやり方を。
大工だったら、施主なら何言ってもいいんかよ! っていう
啖呵なわけですよ。なら俺は家じゃなくて筆箱を作る、
みたいな。
鈴木 これからも、ネット配信で曲を出していくのかも
しれないし、途中でどっかコストの問題で
つぶれちゃうのかもしれない。
でも、レコーディングするコストを抑えた。
抑えてできるようになったんでね。
それから、ほぼ日もそうかもしれないけれど、
ボランティアが多いわけですよ、
すごい端っこのほうの1ページを作ってる人も加えれば
30人くらいのスタッフが関わっているわけですけれど、
無償で、ほとんど実費だけでやってくれてるわけなんだよ。
この1個だけの配信に関しては、
コストかかってないね。あまり。
糸井 それじゃあ定期的に出してくっていうのには……。
鈴木 何か問題がでてくるかもしれない。わからない。
糸井 うちなんか初期の頃は学生さんにやらせてたんですよ。
で、学生さんて、こういうのはどうですか、
わたしやりたいことあるんですって言っても、
よろしくね、っていううちに来なくなるんですよ。
今くらい力つけてくると、来やすくなるんだけど。
鈴木 それが1年足らずで、こうなったじゃない。
糸井 それが誤算だったんです、3年だと思ってたから。
鈴木 でしょ? 速いんですね。
糸井 3年だっていうのはコストもかかんないっていう上での
計算だったので、その誤算で。
やってみなくちゃわからないシリーズですよね。
俺シュモクザメみたい。
鈴木 頭がTの字になってて両側に眼がついてるやつね。
糸井 結局慶一君のほうのプロジェクトでも、
とりあえず食えるように、
屋根のあるところで生きていけるように、
みたいな発想で会社員を夜使うとか。
鈴木 そうなんだよ。みんな違う本業があるんですよ。
その合間にやるプロジェクトなんです。
俺も普段仕事があって、合間に見てる。
メーリングリストだからね。
親分がいない世界なんだよね。
糸井 何ができるかな、っていうのがわからないと、
次のことができないんです。
つまり、「これ」はやれるんです。
でも、こっからどうやって枝葉をつけてくかってときに
本業のある人は、もう1個はできないんです。
鈴木 そうなると別の本業のある人を集めるか、もしくは、
本業があってもやれるようなシステムをつくるか。

(つづく)

2000-03-07-TUE

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